請求した金額より少ない額が振り込まれて「源泉徴収税額」と書いてある。フリーランスになって最初に戸惑うのがこれです。差し引かれたお金は消えたわけではなく、所得税の前払いです。この記事では、どの報酬が対象になるのか、いくら引かれるのか、請求書にどう書くのか、確定申告でどう取り戻すのかを順番に解説します。
源泉徴収とは(フリーランスの場合)
源泉徴収は、報酬を支払う側(クライアント)が所得税を先に差し引いて、本人の代わりに国へ納める仕組みです。差し引かれた税額は「あなたが前払いした所得税」として扱われ、確定申告で 1 年分の所得税と精算されます。払いすぎていれば差額が還付され、足りなければ差額を納めます。
- 対象になるかどうかは「報酬の種類」で決まる(職業名ではない)
- 源泉徴収するのは支払う側。法人、または従業員を雇っている個人事業主に義務がある
- 手取りが減ったように見えるが、確定申告で精算されるので最終的な税負担は変わらない
対象になる報酬・ならない報酬
所得税法 204 条で対象となる報酬の種類が列挙されています。フリーランスに関係が深いものを整理すると次のとおりです。
| 区分 | 報酬の例 |
|---|---|
| 対象になる | 原稿料・ライティング・挿絵・作曲/デザイン料(Web デザイン・ロゴ・バナーを含む)/講演料・セミナー講師料/翻訳・通訳料/写真・映像の撮影料/弁護士・税理士・司法書士・中小企業診断士など士業の報酬/モデル・タレント・スポーツ選手の報酬 |
| 対象にならない | プログラミング・システム開発・コーディング/Web サイトの保守運用・サーバー管理/事務作業・データ入力・カスタマーサポート/経営コンサルティング(中小企業診断士の業務を除く)/物品の販売・商品の仕入れ |
Web 制作のように「デザイン(対象)」と「コーディング(対象外)」が 1 つの案件に混ざる場合は、請求書でデザイン料とコーディング料を分けて書くと、クライアント側も処理しやすくなります。分けていないと全額が対象として扱われることがあります。
計算方法(10.21%、100 万円超は 20.42%)
税率は所得税 10% に復興特別所得税 0.21%(2037 年まで)を加えた 10.21% です。1 回の支払いが 100 万円を超える部分は 20.42% になります。
- 報酬額が 100 万円以下: 報酬額 × 10.21%
- 報酬額が 100 万円超: (報酬額 − 100 万円)× 20.42% + 102,100 円
- 1 円未満の端数は切り捨て
| 報酬額(税抜) | 源泉徴収税額 | 計算 |
|---|---|---|
| 50,000 円 | 5,105 円 | 50,000 × 10.21% |
| 100,000 円 | 10,210 円 | 100,000 × 10.21% |
| 300,000 円 | 30,630 円 | 300,000 × 10.21% |
| 1,000,000 円 | 102,100 円 | 1,000,000 × 10.21% |
| 1,500,000 円 | 204,200 円 | 500,000 × 20.42% + 102,100 |
消費税は「税抜」に対して計算できる
請求書で報酬額と消費税額を明確に分けて書いていれば、税抜の報酬額に対して源泉徴収します。分けて書いていない場合は税込額が対象になります。同じ 10 万円の仕事でも、書き方で手取りが変わります。
| 請求書の書き方 | 源泉徴収の対象 | 源泉徴収税額 | 振込額 |
|---|---|---|---|
| 報酬 100,000 円+消費税 10,000 円と分けて記載 | 100,000 円 | 10,210 円 | 99,790 円 |
| 110,000 円(税込)とだけ記載 | 110,000 円 | 11,231 円 | 98,769 円 |
請求書の書き方
源泉徴収がある案件の請求書は、次の 4 行の順で書くとクライアントの経理担当者がそのまま処理できます。
- 小計(税抜の報酬額): 100,000 円
- 消費税(10%): 10,000 円
- 源泉徴収税額: −10,210 円(税抜額 × 10.21%)
- 差引請求金額: 99,790 円
源泉徴収税額の行を書くかどうかは任意で、書かなくてもクライアントは源泉徴収します。ただし書いておくと振込額と請求書の金額が一致し、入金確認が楽になります。対象外の報酬(システム開発など)の請求書には書きません。
入金額から報酬額を逆算する
請求書に源泉徴収税額を書いていない案件で、振込額だけが分かっているときは次の式で税抜の報酬額に戻せます。
税抜の報酬額 = 振込額 ÷ 0.9979 (0.9979 = 1 + 消費税 10% − 源泉徴収 10.21%) 例: 振込額 99,790 円 ÷ 0.9979 = 100,000 円 源泉徴収税額 = 100,000 × 10.21% = 10,210 円
振込手数料が差し引かれていると式が合わなくなります。請求額・入金額・差額(源泉徴収か手数料か)を台帳に記録しておくと、確定申告のときに源泉徴収税額の年間合計がすぐ出せます。
確定申告での精算(還付の受け方)
- 1 年間に差し引かれた源泉徴収税額の合計を、確定申告書 第一表の「源泉徴収税額」欄に記入する
- 計算した所得税額より源泉徴収税額が多ければ、差額が還付される(指定口座に振込)
- 還付までの目安は e-Tax で 3 週間程度、書面提出で 1 か月〜1 か月半
- 還付になる申告は翌年 1 月 1 日から提出でき、2 月 16 日を待つ必要がない
- 申告を忘れていた年の分も、5 年以内なら還付申告ができる
経費が多い年や、所得が少ない年は、源泉徴収された額が実際の所得税より多くなりやすく、還付になるケースが大半です。確定申告をしないと還付は受けられないので、売上が少なくても申告する価値があります。
支払調書は「来ない前提」で自分で記録する
支払調書は、クライアントが税務署に提出する書類です(同じ相手への年間支払いが 5 万円を超える場合)。本人へ送る義務はないため、届かないクライアントもあります。確定申告に支払調書の添付は不要なので、自分の台帳で請求ごとの源泉徴収税額を記録しておけば問題ありません。
クライアントが源泉徴収しなかった場合
源泉徴収の義務は支払う側にあります。対象の報酬なのに差し引かれずに全額振り込まれた場合でも、あなたは確定申告で正しい所得税を納めれば問題ありません。なお、従業員を雇っていない個人のクライアントには源泉徴収の義務がないため、全額振り込まれるのが正しい扱いです。
よくある質問
| 質問 | 答え |
|---|---|
| 源泉徴収されると損? | 損ではない。所得税の前払いで、確定申告で精算される。 |
| 青色申告と関係ある? | 関係ない。白色でも青色でも源泉徴収の扱いは同じ。 |
| インボイスの免税事業者でも引かれる? | 引かれる。消費税の課税・免税と源泉徴収(所得税)は別の制度。 |
| 売上に計上するのは振込額? | 違う。税抜の報酬額(源泉徴収前)を売上に計上し、源泉徴収税額は別に記録する。 |
| 請求書に源泉徴収税額を書き忘れた | 問題ない。クライアント側で計算して差し引く。入金額から逆算して記録しておく。 |
まとめ
- 対象は報酬の種類で決まる。デザイン・原稿・講演・翻訳・撮影は対象、開発・保守・事務は対象外
- 税率は 10.21%。請求書で消費税を分けて書けば税抜額が対象になる
- 請求書は「小計 → 消費税 → 源泉徴収税額 → 差引請求金額」の順
- 確定申告の「源泉徴収税額」欄に年間合計を書けば、払いすぎは還付される
- 支払調書は来ない前提で、請求ごとの源泉徴収税額を台帳に記録する
請求書テンプレート(源泉徴収の表示切替つき)
設定シートで源泉徴収あり/なしを切り替えると、税抜額 × 10.21% の源泉徴収税額と差引請求金額を自動計算。見積書・納品書・入金台帳つき、インボイス対応。
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