インボイス登録をきっかけに消費税を納めるようになったフリーランスの多くは、「売上にかかる消費税の 2 割を納めればよい」2 割特例を使っています。この特例は 2026 年分(2027 年 3 月に申告する分)で終わります。令和 8 年度税制改正で、その後の 2 年間(2027 年分・2028 年分)は個人事業者向けの「3 割特例」が新しく設けられました。この記事では、何がいつ変わり、納税額がいくら増えるのかを、国税庁の資料に沿って整理します。
結論: 2027・2028 年分は「売上の消費税 × 30%」
| 申告する年分 | 使える計算方法(インボイス登録した個人) | 納税額の目安 |
|---|---|---|
| 2026 年分(2027 年 3 月 31 日までに申告) | 2 割特例 | 売上にかかる消費税 × 20% |
| 2027 年分・2028 年分 | 3 割特例(新設) | 売上にかかる消費税 × 30% |
| 2029 年分以降 | 簡易課税 または 本則課税(一般課税) | サービス業の簡易課税なら 売上にかかる消費税 × 50% |
3 割特例は、2 割特例と同じく経費や仕入れの集計が要らず、売上にかかる消費税がわかれば計算できます。法人は対象外で、個人事業者だけの特例です。
売上別: 納税額はいくら増えるか
| 年間売上(税抜) | 売上にかかる消費税 | 2 割特例(2026 年分) | 3 割特例(2027・28 年分) | 増える額 | 簡易課税・サービス業(参考) |
|---|---|---|---|---|---|
| 300 万円 | 30 万円 | 6 万円 | 9 万円 | +3 万円 | 15 万円 |
| 500 万円 | 50 万円 | 10 万円 | 15 万円 | +5 万円 | 25 万円 |
| 800 万円 | 80 万円 | 16 万円 | 24 万円 | +8 万円 | 40 万円 |
消費税率 10%(地方消費税込み)で概算した目安です。実際の申告では国税・地方税に分けて計算し、端数処理があるため数百円〜数千円ずれます。
増えるのは売上にかかる消費税の 10% 分、税抜売上の 1% 分です。月の積立額で考えると、2 割特例なら税込入金額の約 1.8%、3 割特例なら約 2.7% を消費税用に取り分けておけば足ります。
3 割特例を使える人・使えない人
国税庁の Q&A では、3 割特例は「個人事業者である適格請求書発行事業者の 2027 年・2028 年を含む各課税期間で、免税事業者(課税事業者を選択した免税事業者を含む)が適格請求書発行事業者となる場合」に使えるとされています。つまり、インボイス登録をしなければ免税事業者だった個人が対象です。
- 使える: 開業 2 年目以降も売上 1,000 万円以下で、インボイス登録したので消費税を納めている個人(2 割特例を使ってきた人の多く)
- 使えない: 基準期間(2 年前)の課税売上高が 1,000 万円を超えている年(2027 年分なら 2025 年、2028 年分なら 2026 年の売上で判定)
- 使えない: 前年 1〜6 月の売上と支払った給与がともに 1,000 万円を超えた年など、もともと免税にならない年
- 使えない: 課税期間を 1 か月・3 か月に短縮している年、一定の高額資産(税抜 1,000 万円以上の棚卸資産など)を一般課税で仕入れた影響で免税にならない年
- 使えない: 法人(法人成りした場合も対象外)
簡易課税とどちらが得か
2027・2028 年分は、3 割特例と簡易課税(業種ごとのみなし仕入率で計算)を比べて有利なほうを考えます。簡易課税の納税額は「売上にかかる消費税 ×(1 − みなし仕入率)」です。
| 事業区分(簡易課税) | みなし仕入率 | 簡易課税の納税額 | 3 割特例との比較 |
|---|---|---|---|
| 第 1 種(卸売業) | 90% | 売上の消費税 × 10% | 簡易課税が有利 |
| 第 2 種(小売業など) | 80% | × 20% | 簡易課税が有利 |
| 第 3 種(製造業・建設業など) | 70% | × 30% | 同じ |
| 第 4 種(飲食店業など) | 60% | × 40% | 3 割特例が有利 |
| 第 5 種(サービス業など) | 50% | × 50% | 3 割特例が有利 |
| 第 6 種(不動産業) | 40% | × 60% | 3 割特例が有利 |
デザイン、ライティング、システム開発、コンサルティングなど、フリーランスに多い仕事は第 5 種(サービス業など)に当たることが多く、3 割特例のほうが納税額は小さくなります。一方、物販中心の人は簡易課税のほうが有利になり得ます(国税庁の Q&A でも小売業の例で簡易課税が有利とされています)。経費の消費税が売上の消費税より多い年(大きな設備投資など)は、還付を受けられる本則課税が有利なこともあります。
2029 年分以降はどうなるか
3 割特例は 2028 年分で終わり、2029 年分からは簡易課税か本則課税を選びます。2 割特例や 3 割特例を使った人は、使った年の翌年分の確定申告期限までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を出せば、その年分から簡易課税を使えます(2028 年分で 3 割特例を使った場合、2029 年分の確定申告期限まで)。簡易課税は基準期間の課税売上高が 5,000 万円以下の場合に使え、いったん選ぶと 2 年間はやめられません。
取引先側の経過措置も変わった(免税事業者のままの人向け)
インボイス登録をしていない免税事業者に支払う側(課税事業者の取引先)は、経過措置で消費税の一部を控除できます。令和 8 年度税制改正で、この割合と期間も見直されました。
| 期間 | 取引先が控除できる割合 | 取引先の負担(税込支払額に対して) |
|---|---|---|
| 2023 年 10 月〜2026 年 9 月 | 80% | 約 2% |
| 2026 年 10 月〜2028 年 9 月 | 70% | 約 3% |
| 2028 年 10 月〜2030 年 9 月 | 50% | 約 5% |
| 2030 年 10 月〜2031 年 9 月 | 30% | 約 6% |
| 2031 年 10 月以降 | 控除なし | 約 9% |
取引先の負担は徐々に増えるため、免税事業者のままの人は値引きや登録の要請を受けやすくなります。「登録しないなら 10% 引き」は、2028 年 9 月までは相手の実際の負担(約 3%)を大きく超える要求です。なお、2026 年 10 月以後に始まる課税期間からは、一つの免税事業者からの仕入れが年 1 億円(税込)を超える部分には経過措置が使えなくなりました。
今のうちにやること
- 2026 年分の消費税は 2 割特例で申告する(期限は 2027 年 3 月 31 日、所得税の確定申告と一緒に準備する)
- 2027 年 1 月からの入金は、消費税用の積立を税込入金額の約 2.7% に上げる
- 請求書の単価に消費税をきちんと上乗せできているか確認する(税込み据え置きのままだと、納税額の増加がそのまま手取りの減少になる)
- 物販などの割合が大きい人は、2027 年分から簡易課税のほうが有利でないか比べておく
- 2029 年分からの方法(簡易課税か本則課税か)を、2028 年中に考え始める
よくある質問
3 割特例を使うのに事前の届出は必要ですか?
2 割特例と同じく事前の届出は不要とされており、確定申告書に適用を受ける旨を付記して選ぶ形です。最新の申告書様式と記載方法は、国税庁のインボイス制度特設サイト(令和 8 年度税制改正特集)で確認してください。
売上が 1,000 万円を超えたら 3 割特例は使えませんか?
判定するのは申告する年ではなく基準期間(2 年前)の課税売上高です。たとえば 2027 年分なら 2025 年の課税売上高で判定します。基準期間の課税売上高が 1,000 万円を超えている年は、もともと課税事業者になる年なので 3 割特例は使えません。
法人成りした場合はどうなりますか?
3 割特例は個人事業者だけが対象で、法人は使えません。2 割特例が終わった後の法人は、簡易課税か本則課税を選びます。法人成りを考えている人は、消費税の負担も含めて比べてください。
免税事業者のまま続けても問題ありませんか?
取引先が消費者や免税事業者中心なら影響は小さいです。課税事業者の取引先が多い場合は、2026 年 10 月から相手の負担が税込支払額の約 3%、2028 年 10 月からは約 5% に増えるため、登録を求められる可能性が高くなります。登録すべきかの判断は「インボイス登録すべきか」の記事を参考にしてください。
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